熱中症の労災関連の法律についてご存じでしょうか?
熱中症対策を進めるには、「労災」や「安全配慮義務」について理解を深めることが大切です。
そこで、弁護士の先生にお話を伺いました。
安全管理担当者なら必ず押さえておきたい「安全配慮義務」や、熱中症が発生したときの「賠償責任」について詳しく解説していただきます。
シリーズ「熱中症と労災」弁護士に聞いてみたVol.6
この対談に登場する専門家
魚住 泰宏 氏
弁護士。平成5年大阪弁護士会登録。平成26年大阪弁護士会副会長。令和2・3年日本弁護士連合会研修委員会委員長。日本労働法学会会員。経営法曹会議幹事。
人事労災に関する法律相談・紛争代理、労働関係の執筆・講演など幅広く活動する。
この対談に登場する専門家
平山 直樹 氏
弁護士。令和元年大阪弁護士会登録。
人事労災に関する法律相談・紛争代理に積極的に取り組む。
長引く症状の原因に対しても、使用者の安全配慮義務違反が認定された場合は賠償責任を負う
—— 前回は従業員が死亡して裁判になるケースを説明いただきましたが、熱中症による症状が長引くこともあります。その場合も使用者(企業)は損害賠償責任等を負うのでしょうか。
※前回のコラムはこちら⇒Vol.5 裁判では「現場の従業員が熱中症予防を実践しているか」が重要視される
魚住: 長引く症状の原因が熱中症によるものと認定され、さらに使用者の安全配慮義務違反が認定された場合は賠償責任を負うことになります。
今回も裁判例を見ていきましょう。
平山: 「路線バスの運転手が、30°C超えの気温のなか5時間以上にわたりエアコンが壊れたバスを運転し熱中症に罹患した」という事例です。
この事例では労働基準監督署が「被災者が熱中症に罹患したこと」は労災にあたると認めたため労災給付は支給されましたが、支給されたのは5日間分の休業補償給付等のみでした。
熱中症の症状として、熱中症後自律神経失調症や前庭機能障害の発症に伴うめまいやふらつきなどが出たことを理由とする約1年半分の休業補償給付等が支給されなかったため、裁判となりました。
—— 熱中症は認められたのに、その後の症状への補償がなされなかったということですか。
魚住:いえ、まさに裁判の争点は「被災者が主張するめまいやふらつきが、本当に熱中症の症状であるか」という部分です。
平山:東京地方裁判所(東京地裁)は、めまいやふらつきを熱中症の症状として認めませんでした。
被災者がめまい等の症状が出ても、しばらくは通院することなく自宅で安静にしていたことに着目し、熱中症の程度は救急医学会熱中症分類におけるⅠもしくはⅡ度程度である、この程度の熱中症であれば、年単位でめまいが続くということは通常あり得ない、として熱中症の症状でないと認定しました。
ところが、東京高等裁判所(東京高裁)は、めまいやふらつきを熱中症の症状として認めています。
—— 前回の造園業者のケースと同様、こちらも高裁で熱中症の症状であると認められたのですね。
平山:東京地裁と異なり、東京高裁は、めまいは熱中症の一般的な症状である、熱中症に罹患するまで被災者がめまいやふらつきを起こしたことがない、熱中症にかかった直後から被災者にめまいやふらつきの症状が生じている、被災者が基礎疾患等を持っていないことから、熱中症以外にめまいやふらつきの原因は考えられないとして、めまいやふらつきを熱中症の症状として認めたのです。
—— 熱中症は、たとえ死に至らなくとも、症状が長引いたり、後遺症が残ったりする可能性のある重大な疾病です。万が一、職場で従業員が発症した場合には適切な対応を迅速に実施することが必要になりますね。
本記事は、2021年7月に実施したインタビュー内容を再掲載したものです。最新の法令について、必ずご確認ください。